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第174回 レカネマブ承認へ、医療者を待ち受ける5つの関門

ついにアルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬が、日本の臨床現場に登場することが確定的となった。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は8月21日、エーザイと米国・バイオジェンが共同開発したlecanemabの承認を了承した。これにより年内には保険適用となる見込みだ。思えば2012年の米国のファイザーとジョンソン&ジョンソンによる抗Aβ抗体の静脈注射製剤bapineuzumabの開発中止に始まり、死屍累々だったAβ標的の新薬開発は、ようやく一つの成果を得た形だ。一方で、ADの治療現場では患者・家族の期待値と現実とのギャップが原因で、今後は患者・家族とのコミュニケーションで疲弊させられる可能性も増してくる。大雑把に言えば、疲弊させられる“関門”は5つある。まず、ADは認知症の6~7割を占める原因疾患だが、そのほかに脳血管性認知症、レビー小体型認知症があるが、一般人はこれらの個別の疾患よりもざっくりとした「認知症」というキーワードで認識している人のほうが多数派だろう。それゆえにlecanemabが実際に登場した段階では、ADかどうかにかかわらず「私も」「うちの家族も」という誤解した期待の声に医療従事者は振り回されることになる。ここが第1の関門である。さらに、lecanemabはご存じのように軽度ADと軽度認知障害(MCI)を総称した早期ADのみが適応だ。ここで中等度AD以上の患者・家族は落胆するはずだ。第2の関門である。そして第2関門まで通過した早期ADの患者・家族を待ち受けている第3の関門、それが検査方法である。今回の医薬品第一部会ではlecanemabの承認了承に合わせ、Aβを可視化する陽電子放出断層撮影(PET)用の放射性診断薬であるフルテメタモル(18F、商品名:ビザミル)、フロルベタピル(18F、同:アミヴィッド)の効能追加も了承され、検査面で地ならしも行われた。現在、Aβの蓄積を確認するためには、このアミロイドPETか脳脊髄液検査(CSF検査)という手段になる。しかし、前者は放射性物質の半減期が極めて短いため、地域によっては身近な医療機関では物理的に受けられないことが起こり得る。加えて十分なアミロイドPETの読影訓練を受けた医療従事者がいる医療機関も限られる。さらに保険適用になっても患者は数万円の自己負担が必要になる見込みである。一方で脳脊髄液検査は侵襲性の高い腰痛穿刺が必要になり、現在の保険適用されている体液バイオマーカーは脳脊髄液リン酸化タウ値のみ。ADの診断により適した脳脊髄液アミロイドβ42は保険適用となっていない。昨今では島津製作所が開発している簡易血液検査が注目されてもいるが、おそらくこれが承認されても、第一段階のスクリーニングのみの使用になり、最終的な確認のためにアミロイドPETという流れになる可能性は十分ある。いずれにせよこの第3の関門で、経済的、物理的な理由で検査を躊躇する、あるいは受けられない一部の患者・家族の苦悩と医療従事者は向き合わねばならない。さらにこれら3つの関門を通過して晴れて投与対象になったとしても、第4の関門として、年間数百万円の薬剤費という現実に多くの患者が直面する。たとえ高額療養費制度を使ったとしても、かなりの経済的な負担になることは確実で、その金額に尻込みをする患者・家族が少なからず発生することになるだろう。そして最後の関門は、投与を始めたものの効果を“実感”できない患者・家族から不満が出る可能性である。第III相試験「Clarity AD」で示されたlecanemabの有効性とは、臨床的認知症尺度(CDR:Clinical Dementia Rating)の合計点数(CDR-SB、18点満点)から見ると、プラセボに比べ、進行が27%抑制されていたというもの。一般人からすれば、数字だけを聞くと、劇的な効果と思う人もいるだろうが、この効果は患者・家族はおろか医療従事者ですら見た目で実感できるものではない。そもそも一般人の多くが「薬=病気を治すもの」と考えている中では、投与前に入念な説明をしても、この薬でADによる物忘れが以前よりも少なくなるのではないかなどの誤解交じりの期待を抱く人は残るはずだ。もしかしたら、医療従事者が患者・家族とのコミュニケーションで最も疲弊させられるのはこの点かもしれない。そして何より、実はこれらとは別の非常に大きな問題が浮上してくる可能性がある。それはlecanemabの投与対象のうちMCIは本人や周囲も気付かないことも多いため、後々に「もう少し早くlecanemabを使えていれば…」という事態が生じることだ。lecanemabというイノベーションは、これ以外にも予想もしなかった新たな課題を生むかもしれない。今回の承認にやや興奮しながらも、それと同じくらい不安も感じている。

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DWIBSは不明熱の診療にも有用?【知って得する!?医療略語】第19回

第19回 DWIBSは不明熱の診療にも有用?PET-CT以外にも全身の腫瘍を検索する方法があると聞きました。2年前に保険収載されたDWIBS法というMRIを使用した全身検査があります。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】DWIBS【日本語】背景抑制広範囲拡散強調画像・ドゥイブス法【英字】diffusion-weighted whole body imaging with background suppression【分野】腫瘍関連【診療科】全診療科実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。DWIBS(diffusion-weighted whole body imaging with background suppression)は2004年に放射線科医の高原 太郎氏(東海大学工学部医用生体工学科 教授)により開発された画像検査方法で、背景信号を抑制した全身のMRI拡散強調画像を撮影します。全身の拡散強調画像を1回で撮影でき、PET-CTと比較して遜色ないがんの描出ができるとされ、全身の悪性腫瘍の検索やリンパ節転移の検出、他臓器転移の検出への利用で注目を浴びています。DWIBSの利点は、造影剤や放射性医薬品が不要、放射線被爆がなく、繰り返しの検査でも被爆を心配する必要がないことです。また、検査価格もDWIBSはPET-CTの1/3~1/6程度と低価格です。このためDWIBSは経時的フォローに向いていると言えます。従来であれば、化学療法の効果判定は、腫瘍サイズの縮小などの形態変化から判断していましたが、DWIBSを利用すると腫瘍病変の信号強度の変化を捉えることで、抗がん剤の効果を判定することが可能となり、より早く効果判定することができます。DWIBSは2020年に保険収載されました。PET-CTとは異なり、原発不明がんの精査でも保険診療が可能で、造血器腫瘍は悪性リンパ腫のみならず、白血病や多発性骨髄腫にも保険適応があります。メディカル・データ・ビジョン株式会社のデータベース(MDV analyzer)で調べると、2020年4月~2022年6月の期間、全国調査対象の466施設中、18施設が全身MRI撮影加算を算定しており、検診領域のみならず一般診療にもDWIBSが利用され始めていることが分かります。悪性腫瘍の全身スキャンで注目を浴びるDWIBSですが、炎症部位の検出にも有用とされます。不明熱の患者さんで通常のCTやMRIで熱源や炎症フォーカスを特定できない時にPET-CTを行うこともありますが、DWIBSに置きかえられる可能性があり、PET-CTより低価格で簡便に検査が実施できる可能性があります。実際に発熱の熱源精査にDWIBSを使用し皮膚筋炎の診断に繋がった報告もあります。一方で腫瘍の良・悪性の鑑別には利用が難しいとする報告もあります。DWIBSの利用と可能性の限界について知見の集積が進み、より一般診療で活用できることをとても期待しています。1)今井 裕ほか. 日消誌. 2010;107:712-717.2)加藤 愛美ほか. Clin Rheumatol. 2016;28:150-157.3)Komori T,et al. Ann Nucl Med. 2007;21:209-215.4)今野 信宏. 頭頸部外科. 2021;31:85-89.

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ASCO2021 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2021 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で昨年に引き続きバーチャル開催となったASCO2021。この1年でわれわれもバーチャル開催の学会に随分慣れてしまった感があります。将来、現地開催が復活した時にはどのように感じるのでしょうか。本年のPresidential Themeは“Equity: Every Patient. Every Day. Everywhere.”ということで、いまや全世界に蔓延しているCOVID-19を強烈に意識してのことでしょうか。何はともあれ急速に進歩していくがん治療をさらに推進することももちろん重要ですが、時には足下を見直して、がん患者のケア・治療・研究の偏在をなくし、世界中の人々に平等なアクセスを可能にする努力も忘れてはならないことだと思います。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では昨年に引き続きPSMA-PET関連の重要な報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでも引き続き免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。米国におけるアフリカ系米国人の若年男性におけるPSA検診の増加は前立腺がんの転帰を改善する(Abstract #5004)上記のPresidential Themeに合致するように、racial disparityをテーマとしたアブストラクトが取り上げられています。背景として、アフリカ系米国人の男性は、前立腺がんの罹患率・死亡率ともに多人種に比べて高いことが知られています。つまり、開始年齢や頻度などスクリーニングを強化すべき対象であると考えられます。実際に家族歴などの他のリスク因子も有する場合には、アフリカ系米国人のPSA検診開始推奨年齢は40歳とされています。にもかかわらず、PSA検診に関する研究への参加者におけるアフリカ系米国人の占める割合が低いことなどがしばしば指摘され、本集団に対する適切な受診勧奨の妨げになってきました。今回の研究では55歳未満のアフリカ系米国人男性におけるPSA検診の頻度と診断時の前立腺がんリスクおよび前立腺がん特異的死亡率(PCSM)との関連を調べるために、退役軍人保健局(Veterans Health Administration、退役軍人に対する健康保険プログラムがあるため医療受給に対するバリアが低いこと、病歴情報へのアクセスが可能なシステムが構築されていること、などから本研究のような解析に適している)が有する登録データを用いて、2004~17年に前立腺がんと診断された40〜55歳のアフリカ系米国人男性を特定しました。前立腺がん診断からさかのぼること最長5年間に受けたPSA検診の頻度を算出し、診断時の転移の有無と、PCSMについてその関連を解析しました。前立腺がんと診断されたアフリカ系米国人男性が4,654例特定され、その平均年齢は51.8歳、毎年のPSA検診受診率は平均で53.2%でした。平均値を境にPSA検診受診頻度の高かったグループと低かったグループとに分けて比較すると、低グループでは高グループよりも診断時に転移を有する患者の割合が高かったとのことです(3.7% vs.1.4%、p<0.01)。PSA検診率の増加は診断時の有転移率の低下(オッズ比:0.61、95%信頼区間[CI]:0.47~0.81、p<0.01)およびPCSMのリスクの低下(サブ分布ハザード比:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.02)と有意に関連していました。若年アフリカ系米国人男性に対するPSA検診は早期前立腺がん検出を促し、その転帰を改善する可能性があるという仮説を支持しています。ただし、前向きコントロール研究ではないこと、過剰診断・過剰治療の問題など、まだ解決すべき課題は残されているといえるでしょう。mCRPCに対するルテチウム-177-PSMA-617の効果:VISION Trial(Late-breaking abstract #LBA4)PSMAを標的にβ線を発する177Luを腫瘍微小環境に送達する標的放射性リガンド療法のmCRPCに対する効果を検証した国際ランダム化非盲検第III層試験(VISION Trial, NCT03511664)の結果が公表されました。対象は少なくとも1剤の新規ARシグナル阻害薬と1剤のタキサン系抗がん剤に抵抗性となったmCRPC患者で、事前に68Ga-PSMA-11 PETでPSMA陽性が確認されました。参加者は標準治療に加えて1回7.4GBqの177Lu-PSMA-617を6週間ごとに6サイクル投与する治験薬群と標準治療のみの群(標準治療群)とに2:1の割合で無作為割り付けされました。主要評価項目は、PCWG3 criteriaに基づき、独立した中央レビューによる画像評価によって判定されたrPFSと、OSでした。計831例が治験薬群(551例)あるいは標準治療群(280例)に割り付けられ、観察期間の中央値は20.9ヵ月でした。治験薬群は、標準治療群と比較して有意に長いrPFSを示しました(rPFS中央値:8.7ヵ月vs.3.4ヵ月、HR:0.40、99.2%CI:0.29~0.57、p<0.001、片側)。OSも治験薬群では標準治療群と比較して有意に延長されました(OS中央値:15.3ヵ月vs.11.3ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、p<0.001、片側)。治験薬群ではGrade3以上の有害事象の発生率が標準治療群と比較して高くなりましたが(52.7% vs.38.0%)、治療の忍容性は良好でした。177Lu-PSMA-617治療は忍容性の高いレジメンであり、既存治療に対して抵抗性を獲得したPSMA陽性mCRPC患者において、標準治療単独と比較して、rPFSおよびOSの延長効果を示しました。わが国では、放射性医薬品規制の面で解決すべき課題があるものの、今後、本セッティングにおける標準治療として承認されることが期待されます。mCSPCに対する新規ARシグナル阻害薬治療時代の局所療法:PEACE-1 Trial (Abstract #5000)mCSPC患者に対する局所放射線照射は、低腫瘍量(low metastatic burden)の患者でOSベネフィットを示しており、NCCNガイドラインでも低腫瘍量患者において推奨されています。しかしこれらの根拠となった臨床試験(HORRADやSTAMPEDE)における全身治療はADTが標準でした。しかし現在、リスクにかかわらずmCSPC患者に対する全身治療はADTに新規ARシグナル阻害薬を上乗せすることが推奨されています。PEACE-1試験(NCT01957436, Abstract #5000)は、mCSPC患者に対するベースラインADT治療にアビラテロン(プレドニゾン併用)と局所放射線治療(EBRT)のいずれかあるいは両方を追加することがOSの延長につながるかどうかを、2×2の分割デザインで検証しようというものです。途中ドセタキセルの併用が許容されるなどのプロトコール変更があり、やや複雑となっていますが、基本的なデザインはmCSPC患者をADT治療のみあるいは、アビラテロンとEBRTのいずれかあるいは両方を追加する4群に無作為割り付けするというものです。主要評価項目はrPFSとOSで、今回はEBRTの有無にかかわらず、アビラテロンの有無がrPFSに与える影響を解析した結果が報告されました。アビラテロン(±EBRT)群はADT(±EBRT)群と比較してrPFSを有意に延長(HR:0.54[0.46~0.64]、p<0.0001、中央値2.2年vs.4.5年)し、その効果はドセタキセル併用群でも一貫していました(HR:0.38[0.31~0.47]、p<0.0001、中央値1.5年vs.3.2年)。今回の結果は既存のSTAMPEDE試験の結果などにそれほどの新規知見を加えるわけではありませんが、今後EBRTの有無によるrPFSあるいはOSの延長効果の解析結果が待たれるところです。腎細胞がん患者の術後補助療法としてのペムブロリズマブの効果:KEYNOTE-564 Trial(Late-breaking abstract #LBA5)淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)におけるペムブロリズマブの術後再発予防効果を検証した、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験(KEYNOTE-564 Trial, NCT03142334)の結果が公表されました。これまでに、ccRCCにおいて術後補助療法として明確な再発予防効果やOS延長効果を示した薬剤は存在しませんでした。本試験は、組織学的に診断された術後再発リスクの高いccRCC患者を対象として実施されました。術後再発の高リスクは、(1)pT2N0M0でグレード4あるいは肉腫様コンポーネントを有する、(2)pT3-4N0M0(組織学的悪性度は問わない)、(3)pTanyN1M0(組織学的悪性度は問わない)、(4)M1 NED(腎摘除術後1年以内に再発巣あるいは軟部組織転移巣が完全切除され残存病変を認めない)と定義されました。3週ごとのペムブロリズマブあるいはプラセボ投与は術後1年間(計17回投与)続けられました。主要評価項目は無再発生存(DFS)で全生存(OS)は副次的評価項目とされました。計994例がペムブロリズマブ群(496例)あるいはプラセボ群(498例)に割り付けられ、観察期間の中央値(範囲)は24.1ヵ月(14.9~41.5ヵ月)でした。事前に計画されていた第1回目の中間分析で、主要評価項目であるDFSにおいてペムブロリズマブ群の優位性が示されました(両群とも中央値未到達、HR:0.68、95%CI:0.53~0.87、p=0.0010、片側)。24ヵ月での推定DFS率は、ペムブロリズマブ群で77.3%、プラセボ群で68.1%でした。全体として、ペムブロリズマブ群のDFSに対する効果はサブグループ間で一貫していました。OSイベントが観察されたのは51例(ペムブロリズマブ群で18例、プラセボ群で33例)とまだ少なく、両群間のOSに統計学的な有意差は認めませんでした(両群とも中央値未到達、HR:0.54、95%CI:0.30~0.96、p=0.0164、片側)。24ヵ月での推定OSは、ペムブロリズマブ群で96.6%、プラセボ群で93.5%でした。Grade3以上の有害事象の発生頻度はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%でした。ペムブロリズマブ群における治療関連死亡は報告されませんでした。ペムブロリズマブは、術後再発リスクの高いccRCCの患者において、プラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるDFS延長効果を示しました。OSに関しては追加のフォローアップが計画されています。今回、KEYNOTE-564試験は、RCCの術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬を用いた第III相試験としては初めて主要エンドポイントを満たしました。今後、本セッティングにおける新たな標準治療として期待が持てる結果といえるでしょう。長期フォローアップでOSの延長効果も示すことができるかが重要なポイントであると考えます。また、長期フォローの結果、プラセボ群の無再発生存率がどれくらいでプラトーに達するのか(プラセボ群での無再発生存率が高いということは不必要なアジュバント治療を受ける患者が多いことを示しており、対象患者のさらなる最適化が望ましいということになります)という点にも注目したいと思います。このほか腎がん領域では、上記のほかにKEYNOTE-426試験(NCT02853331)の長期(42ヵ月)フォローアップデータ(Abstract #4500)が公表されました。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)における選択的膀胱温存療法:3つのP II試験の結果(Abstracts #4503/#4504/#4505)MIBCの標準治療はネオアジュバント化学療法に続く根治的膀胱全摘ですが、以前から膀胱を温存しながら根治を目指す治療が一部患者で可能であることは知られています。しかし、膀胱温存可能な患者の治療前からの予測が難しいこと、臨床的CRの基準が曖昧であること、そして救済膀胱全摘の意義が不明であることなどから、適応の是非が未確定な状態が続いています。今回は3つの第II相試験の結果がOral sessionで報告されています。1つ目はHCRN GU 16-257試験(NCT03558087, Abstract #4503)で、本試験ではシスプラチン適格なcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がん患者をエントリーし、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)にニボルマブを上乗せしたレジメンを4コース施行後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除によって再評価を行っています。いずれの検査でもがんなしと判断された場合(Ta腫瘍の残存は許容)には、cCRと判断しニボルマブを2週間隔で8回投与した後に経過観察となります。主要評価項目はcCRの達成率に加え、cCRによる2年無転移性生存(MFS)の予測能となっています。また、副次的評価項目としてcCRによるMFS予測において初回TUR-BT組織を用いて解析した遺伝子変異プロファイル(TMB、ERCC2変異、FANCC変異、RB1変異、ATM変異)の有用性も評価されました。今回はcCR達成率と1年の中間解析の結果が報告されました。76例(男性79%、年齢の中央値69歳、cT2:56%、cT3:32%、cT4:12%)がエントリーされ、うち64例(84%)が4サイクルのGC+ニボルマブ治療後の再評価を受けました。64例中31例(48%、95%CI:36~61%)がcCRと判定されました。TMB≧10 mutations/Mb(p=0.02)、ERCC2変異(p=0.02)がCRと関連していました。今後より長期の観察に基づくアウトカムに期待を持たせる結果と考えられます。2つ目は放射線治療も組み合わせた、いわゆるTrimodality therapyの第II相試験(NCT02621151, Abstract #4504)で、これもcT2-T4aN0M0のMIBC患者が対象ですが、こちらは膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。シスプラチン適/不適は不問でeGFR>30mL/minが条件となっています。治療プロトコールは、ペムブロリズマブの初回投与の2~3週間後にTURによる可及的切除を行い、さらに膀胱に寡分割照射によるEBRT(52Gy/20回、IMRTを推奨)と同時に週2回(×4週間)のゲムシタビン(27mg/m2)と3週ごとのペムブロリズマブを3回投与するというものです。EBRTの12週後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除による効果判定を実施します。その後も画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、膀胱鏡によるフォローアップを行いました。最初の6例が安全性評価の対象となり、さらに48例が治療効果評価の対象となりました。主要評価項目は2年の膀胱温存無病生存(BIDFS)でした。本研究でも腫瘍検体およびPBMCを用いた解析が行われています。予定されていた54例がエントリーされ、ステージの内訳はcT2が74%、cT3が22%、cT4が4%でした。安全性評価の対象となった最初の6例全例が治療プロトコールを完遂しました。治療効果評価の対象となった48例のうち1例(2%)がEBRTとゲムシタビンを、2例(4%)がゲムシタビンを、4例(8%)がペムロリズマブを主に副作用を理由に中断しました。48例の観察期間の中央値(範囲)は11.7ヵ月(0.6~32.2ヵ月)で、12例(25%)が何らかの様式で再発を来しました(NMIBC 6例、MIBC 0例、所属リンパ節2例、遠隔転移4例)。Grade3以上の有害事象は35%の症例で観察され、ペムブロリズマブに限るとGrade3以上の有害事象発生率は6%でした。ここまでのところ、有害事象は既報と同等で、2年フォローアップの最終解析と、バイオマーカー探索の結果が報告される予定になっています。3つ目はIMMUNOPRESERVE-SOGUG trial試験(NCT03702179, Abstract #4505)で、本試験でもcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がんを有し、膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。治療プロトコールは、まずTUR-BTを先行し、それに続くデュルバルマブ(1,500mg/body)+トレメリムマブ(75mg/body)を4週間ごとに3回投与しました。治療開始2週間後には、小骨盤に46Gy、膀胱に64~66Gyの線量で正常分割EBRTを開始しています。腫瘍残存あるいは再発例に対しては救済膀胱全摘を推奨しています。主要評価項目は経尿道的生検による筋層浸潤がんの消失によって定義されるCR達成率でした。最初の12例で6例以上がCRを達成した場合にさらに20例を追加する2段階デザインが採用されました。32例がエントリーされ、臨床病期の内訳はT2が28例(88%)、T3が3例(9%)、T4が1例(3%)でした。全例が少なくとも2コースのデュルバルマブ+トレメリムマブ治療を受け、膀胱への照射線量の中央値(範囲)は64Gy(60~65)でした。経尿道的生検によるCR達成率は81%でした。観察期間の中央値(範囲)は6.1ヵ月(2.5~20.1)で、BIDFS、DFS、OSはそれぞれ76%(95%CI:61~95%)、80%(95%CI:66~98%)、93%(95%CI:85~100%)でした。Grade3以上の有害事象は31%の症例で観察されています。前二者に比べてT2症例の割合が比較的高いものの、本レジメンも良好な成績を残しているといえるでしょう。今回の報告のほかにもさまざまなレジメンが膀胱温存療法として試されており、今後どのような治療レジメンが標準治療として残ってくるのか不透明な状態ですが、バイオマーカー探索などにより、対象症例とレジメンの最適化が進めば、MIBC患者にとって福音となることが期待されます。このほか尿路上皮がん領域ではKEYNOTE-052試験(NCT02335424, Abstract #4508)およびKEYNOTE-045試験(NCT02256436, Abstract #4532)の5年フォローアップデータが発表されております。おわりに総じて、前立腺がんではPSMA-PET関連の話題が昨年に引き続き大きなインパクトをもって報告されています。腎がんでは術後アジュバント、尿路上皮がんではネオアジュバントあるいは膀胱温存と、免疫チェックポイント阻害薬を絡めた治療が着実にEarly lineに食い込んできています。とくに尿路上皮がんではそのタイミングや併用薬、放射線治療の有無など、治療プロトコールが多様化しており、今のところは混沌としています。ゲノム関連を中心としたバイオマーカーによる個別化に進むか、それを凌駕する効果的な治療法が開発されるか、いずれにしても今後どのように最適化されてくるのか注視したいと思います。

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第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か

今年の医療法等改正をおさらいこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。予想通り、7月12日から東京都は4回目の緊急事態宣言に突入しました。沖縄県に出されていた同宣言も延長となりました。オリンピック開催を至上命令として、マッチポンプのようにコロコロと変わる政府の施策に、国民の多くはさすがに辟易としてきているようです。7月13日に読売新聞社が公表した同社世論調査によれば、菅内閣の支持率は37%、昨年9月の内閣発足以降最低だった前回(6月4~6日調査)から横ばいです。一方、不支持率は53%(前回50%)に上がり、内閣発足後で最高となったそうです。中でも東京の菅内閣の支持率は28%で、全国平均の37%と比べて9ポイント低かったそうです。進まないワクチン接種や、酒提供に関して金融機関からの働き掛け方針の撤回など、政府の右往左往ぶりは既に末期症状かもしれません。さて、こんな時は野球観戦です。昨日(7月13日)は、MLBオールスターゲームのホームランダービーを朝から観戦していました。初出場のロサンゼルス・エンゼルスの大谷 翔平選手は、残念ながら1回戦でワシントン・ナショナルズのフアン・ソト選手に敗れてしまいました。それにしても、対戦後、ハアハア息をする大谷選手を見て、ホームランダービーの過酷さがわかりました。他の出場選手よりも息が荒かったのは、デンバーの球場が標高1,600mと高地にあり高度順応ができなかったからか、他の選手の心肺機能の方が高かったからかわかりませんが、あの対戦を2回連続(2019年と今年)制したニューヨーク・メッツのピート・アロンソ選手は本当にすごいです。さて、新型コロナ感染症による緊急事態宣言とオリンピック開催を巡る騒動の陰で、これからの医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正が行われていました。今回は”事件”から少々離れて、それについて簡単におさらいしておきたいと思います。医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正とは、ずばり医療法等の改正です。法律案の名称は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」。医師の労働時間の短縮や新興感染症の感染拡大時における医療提供体制の確保など、医療現場が直面するさまざまな課題を解決するためにつくられた法律案です。関連する法律も医療法をはじめ、医師法や歯科医師法、診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法と幅広く、それぞれの法律の改正を一括するかたちで、「……医療法等の一部を改正する法律案」として審議されてきました。2024年度からの時間外労働規制に向けた「医師の働き方改革」この医療法等改正法は5月21日の参議院本会議で可決・成立しました。柱は大きくは3つです。1)医師の働き方改革勤務医の時間外労働規制が2024年度から適用されることを受け、「長時間労働の医師の労働時間短縮および健康確保のための措置の整備」が講じられます。具体的には、勤務医が長時間労働となる医療機関での「医師労働時間短縮計画」の作成が義務付けられます。また、地域医療の確保や研修を集中的に実施する観点からやむを得ず、規定よりも多い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度がつくられます。指定された医療機関では連続勤務時間の制限といった健康確保措置が求められます。2)各医療関係職種の専門性の活用次に「各医療関係職種の専門性の活用」です。 これも「医師の働き方改革」に関連したもので、医師の負担軽減を目的に、4つの医療関係職種の業務範囲を拡大し、タスクシフト・シェアを推進することになりました。診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種の資格法が改正されています。いずれも施行は今年10月1日からで、医師が働く現場にすぐに影響が出るのは、このタスクシフト・シェアでしょう。これについては、あとからもう少し詳しく解説します。なお、「専門性の活用」については医師の養成課程の見直しも行われています。2025年4月から共用試験合格が医師国家試験の受験資格要件となります。また、同試験に合格した医学生は医師法第17条(医師でなければ、医業をなしてはならない)の規定にかかわらず、大学が行う臨床実習において、医師の指導監督のもとで医業(つまり診療)を行えるようになります。この措置は2023年4月からの施行です。医療計画に新興・再興感染症医療提供体制に関する事項追加そして法改正のもう一つの柱が、3)地域の実情に応じた医療提供体制の確保です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で露呈した医療提供体制のさまざまな課題に対応するため、2024年度からの第8次医療計画に「新興感染症等の感染拡大時における医療」の確保に関する事項が追加されます。具体的には、現行は「5疾病・5事業および在宅医療」の医療計画の記載事項が、「5疾病・6事業および在宅医療」に改められます。これまで、医療計画の中に、新興・再興感染症の感染拡大への対応が記載されていなかったのは国・厚生労働省の怠慢としか言いようがありませんが、とにかくそれに関する事項が追加されたことは評価したいと思います。また、2022年度からは、高度な医療機器など医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める「外来機能報告制度」が創設されます。これまで入院医療については「病床機能報告制度」があったのですが、それが外来にも拡大されるわけです。入院医療に加え外来医療も医療機能の分化と連携を進めるのが狙いとされています。外来機能報告制度の施行は2022年4月で、報告を基に、地域医療構想と同様不足する外来医療機能の確保といった問題を「地域の協議の場」などで話し合い、調整することになります。放射線技師、検査技師、臨床工学技士、救急救命士の業務拡大の中身さて、前述のように、こうしたさまざまな改革の中で、すぐに現場に影響を及ぼしそうなのが、医療関係職種の業務範囲拡大によるタスクシフト・シェアでしょう。何せこれまで医師にしかできなかった業務を他職種に任せることができるのですから。診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法の改正により、各職種に新たに認められる業務は以下です(政省令改正で済むものを除く)。診療放射線技師造影剤を使用した検査・RI検査(放射性医薬品を用いる検査)のための静脈路確保RI検査医薬品を注入するための装置接続と操作RI検査医薬品投与終了後の抜針・止血医師・歯科医師が診察した患者に対する、その医師等の指示に基づく、医療機関以外の場所に出張して行う超音波検査臨床検査技師採血に伴う静脈路確保と、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む)への接続静脈路を確保し、成分採血のための装置接続と操作、終了後の抜針・止血超音波検査に関連する行為としての静脈路確保、造影剤接続・注入、造影剤投与終了後の抜針・止血臨床工学技士手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作救急救命士現行法における「医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置」について、救急外来(救急診療を要する傷病者が来院してから入院に移行するまで〈入院しない場合は帰宅するまで〉に必要な診察・検査・処置等を提供される場)においても実施可能に救急救命士の業務範囲拡大は医療関係団体からの強い要望で実現最後の救急救命士の業務範囲拡大は、日本医師会、日本救急医学会、四病院団体協議会から要望が出され、厚労省の「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」で議論がされてきました。一部には救急救命士が一定の医行為を実施することに強く反対する意見もあったそうですが、最終的には医師の負担軽減に必要、として了承されました。法改正が施行される今年10月1日からは、重度傷病者が搬送先医療機関に入院するまでの間、または入院を要さない場合はその医療機関に滞在している間、医療機関に勤務する救急救命士は特定行為を含む救急救命処置ができることになります。実際の運用面の議論も開始救急救命士法の改正を受け、厚労省は6月4日「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」を開催し、救急救命士が救急外来において処置を実施する際の運用面の議論が行われています。この中では、救急救命士の質を担保するために医療機関に設置する委員会の詳細や、 救急救命士への院内研修項目なども提案されました。つまり、病院が救急救命士を救命救急業務に就かせるには相応の組織を設けたうえで、研修等の実施が必須になるようです。運用スタートまで3ヵ月を切っており、秋口までには詳細が決まると思いますが、他の職種のタスクシフト・シェアと比べても患者の生死に直結する業務だけに、拙速な議論だけは避けてもらいたいものです。救急救命士の効果的な活用は、急性期病院の命運を握る救急救命士が救急外来で働くことは、医師の仕事量の軽減だけでなく、病院経営にとっても大きなプラスになると考えられます。人件費の高い医師でなく、救急救命士を多数雇うことで、コストを抑えつつ救急外来を回すことができるからです。しかも、救急部門の充実は、病院が急性期病院として生き残るための経営の要でもあります。救急救命士の効果的な活用は、今後の急性期病院の命運を握ると言えるでしょう。実際、今回の法改正が行われる前から、救急救命士を雇用する病院は増加傾向のようで、病院勤務を志望する救急救命士も増えていると聞きます。来年にかけ、救急救命士の争奪戦が本格化しそうな気配です。

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軽度アルツハイマー病への抗Aβ抗体、第III相試験の結果/NEJM

 軽度アルツハイマー病患者に対するヒト化モノクローナル抗体solanezumabの投与(400mgを4週ごと)について、認知機能低下を遅らせる有意な効果は認められなかった。米国・コロンビア大学のLawrence S. Honig氏らが、2,129例を対象に行った第III相の無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果を、NEJM誌2018年1月25日号で発表した。アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ)斑と神経原線維変化を特徴とするが、solanezumabは、可溶性Aβ(原線維アミロイドとして沈着する前の段階で、シナプスで毒性を引き起こすとされるペプチド)が、脳から除去される量を増やすようデザインされた。solanezumab 400mgを4週ごと投与、80週の認知機能変化を評価 研究グループは、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコアが20~26の軽度アルツハイマー病患者で、フロルベタピルを用いたPET検査または脳脊髄液中のAβ1-42測定によりアミロイドの沈着が認められた2,129例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはsolanezumab 400mgを(1,057例)、もう一方の群にはプラセボを(1,072例)、それぞれ4週ごとに76週間静脈内投与した。 主要評価項目は、ベースラインから80週までの、アルツハイマー病評価尺度の14項目の認知機能下位尺度(ADAS-cog14)スコア(0~90、スコアが高いほど認知機能障害が重度であることを示す)の変化量だった。80週後のADAS-cog14・MMSEスコアともに変化量に有意差なし 80週後のADAS-cog14スコア変化量の平均値は、solanezumab群6.65に対し、プラセボ群7.44と、両群で有意差はなかった(群間差:-0.80、95%信頼区間[CI]:-1.73~0.14、p=0.10)。 事前規定の階層的解析において、主要評価項目に有意差は認められなかったため、副次評価項目については有意性の検定を行わなかった。副次評価項目の記述的結果としては、MMSEスコアのベースラインからの変化量は、solanezumab群が-3.17、プラセボ群が-3.66だった。 無作為化後のMRI上の異常所見としては、脳浮腫または髄液貯留が、solanezumab群1例、プラセボ群2例に認められた。

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MCIからAD、DLBへの進行を予測するには:順天堂大

 アルツハイマー病(AD)とレビー小体型認知症(DLB)の鑑別診断には、18F-フルデオキシグルコース(FDG)PETと123I-ヨードアンフェタミン(IMP)SPECTが使用される。しかし、軽度認知障害(MCI)における鑑別診断に関する情報は少ない。順天堂大学・横浜市立大学の千葉 悠平氏らは、MCIがADによるものかDLBによるものかの鑑別が、FDG PETおよびIMP SPECTで可能かを検討した。Psychiatry research誌2016年3月30日号の報告。 対象は、十分に特徴付けられた通常のデータベースとstereotactic extraction estimation(SEE)法を用いて、FDG PETとIMP SPECT の情報を有するAD群9例、DLB群9例、ADによるMCI患者(MCI-AD群)8例、DLBによるMCI患者(MCI-DLB群)9例。 主な結果は以下のとおり。・AD群とDLB群では、後頭部のROC解析で、FDG PET、IMP SPECTともに有意な精度が示された。・MCI-AD群とMCI-DLB群では、ROC解析で、鑑別診断においてFDG PETのみが有意な精度を示した。 著者らは「FDG PETとIMP SPECTはどちらもADとDLBの鑑別に有効である。また、MCI-ADとMCI-DLBの鑑別には、FDG PETのほうがIMP SPECTよりも有用である」としている。関連医療ニュース レビー小体型とアルツハイマー型を見分ける、PETイメージング SPECT+統計解析でアルツハイマー病の診断精度改善:東北大

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前立腺がん骨転移治療に進展、塩化ラジウム223「ゾーフィゴ」が前立腺がんの承認取得

 2016年3月28日、バイエル薬品株式会社(本社:大阪市、代表取締役社長:カーステン・ブルン)は、骨転移のある去勢抵抗性前立腺癌の効能・効果で、塩化ラジウム223(商品名:ゾーフィゴ静注、以下、ゾーフィゴ)の製造販売承認を取得したと発表。ゾーフィゴは、日本で初めてのアルファ線を放出する放射性医薬品。 今回の承認は、国際共同第III相試験ALSYMPCA(ALpharadin in SYMptomatic Prostate CAncer)試験のデータ、および日本人の患者を対象に塩化ラジウム223の安全性と有効性を評価した試験のデータに基づいている。ALSYMPCA試験は、症候性の骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の患者を、標準的治療下で、塩化ラジウム223投与群とプラセボを投与群に無作為に割り付けた二重盲検プラセボ対照国際共同第III相臨床試験。中間解析では、塩化ラジウム223投与群のOS中央値14.0ヵ月に対し、プラセボ投与群11.1ヵ月と、塩化ラジウム223投与群が有意に延長した(HR:0.681、95%CI:0.542-0.857、p=0.00096)。盲検解除後に実施した2回目の解析では、塩化ラジウム223群14.9ヵ月と、プラセボ群の11.3ヵ月に比べ、OS中央値のさらなる延長が認められた(HR:0.691、95% CI:0.578-0.827)。 ALSYMPCA試験において、塩化ラジウム223群で発現頻度の高かった有害事象(25%以上で発現)は、骨痛(塩化ラジウム群 51.7%、プラセボ群 63.5%)、悪心(35.5% vs. 33.9%)、貧血(31.2% vs. 30.6%)、疲労(26.5% vs. 25.9%)、下痢(25.7% vs. 15.0%)であった。発現頻度の高かった血液学的事象は、貧血(31.2% vs. 30.6%)、好中球減少症(5.0% vs. 1.0%)、汎血球減少症(2.0% vs. 0%)、血小板減少症(11.5%vs. 5.6%)、白血球減少症(4.2% vs. 0.3%)、リンパ球減少症(0.8% vs. 0.3%)であった。 ゾーフィゴは、2013年にEUおよび米国で発売以来、世界40カ国以上で使用されている。有効成分であるラジウム223は、アルファ線を放出する放射性同位元素。骨塩(ヒドロキシアパタイト)複合体を形成することにより、骨、とくに骨転移巣を選択的に標的とする。高LET(線エネルギー付与)放射線であるアルファ線は、腫瘍細胞に対して高頻度でDNA二本鎖切断を誘発し、強力な殺細胞効果をもたらす。また、アルファ線の飛程は 100 µm未満であるため、周辺正常組織へのダメージを最小限に抑えるという。バイエル薬品株式会社のプレスリリースはこちら

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